働き方改革法でどう変わる?
残業に上限規制 専門職に「脱時間給」 2018/6/30付 日本経済新聞 朝刊
働き方改革関連法が成立したことで今後、仕事や賃金のあり方は大きく変わっていきそうだ。企業によっては、大幅な業務の見直しや従業員の増員などの対応に迫られる。法律に盛り込まれた制度が適用された場合に何が変わるのか。ポイントをまとめた。
従来は「青天井」
働き方に最も大きな影響を与えるのは、日本の労働法制で初めて導入される残業時間の上限規制だ。関連法の中で盛り込まれた改正労働基準法で規定される。同法では労働時間は「原則1日8時間・週40時間」と決まっているが、労使で協定を結べば、残業時間の上限は無制限に設定できるのが実態だ。「残業時間は事実上の青天井」といわれていた。
今回の法整備により、改正労基法が定める残業の上限は「原則月45時間・年360時間」になる。特別な事情がある場合でも「年720時間以内、2~6カ月平均で80時間以内、単月で100時間未満」に抑える。月45時間を超えていいのは、年6回までだ。
繁忙期であっても2カ月連続で90時間残業することはできない。月50時間の残業を1年続けるような働き方も禁止だ。上限を超えれば企業に罰則が科せられる。法令順守のため、従業員を増やしたり省力化投資をしたりしなければならない企業も出てくる。
中小、20年に適用
制度が適用されるのは、大企業の場合は2019年4月、中小は20年4月から。新商品などの研究開発職は適用除外だ。自動車の運転業務や建設業従事者、医師に適用されるのは24年4月からだ。
規制の強化とともに緩和策も整備された。年収1075万円以上の金融ディーラーやコンサルタント、アナリストらが対象の「脱時間給制度」だ。日本で初めて、働いた時間と賃金の関係を切り離す制度だ。19年4月に創設する。
労基法で定める1日の法定労働時間は原則8時間。これを超えると残業代を支給しなければならない。新設する脱時間給制度が適用される場合は、残業代や休日手当を支給する対象外になり、仕事の成果で評価する。
労基法は戦前の工場法がベースで、費やした時間と成果が比例するという考え方に立っていた。しかしホワイトカラーの仕事では時間と成果は比例しにくい。長々と働くのではなく、短時間で付加価値の高い仕事をする人にもっと報いる必要性があった。
だが懸念も残る。健康を確保する措置として年104日以上の休日取得などを義務付けたが、野党の多くは「長時間労働が増える」と反対した。ブラック企業が悪用しようとすれば、1日24時間働かせることも理論上は可能だ。
そのため、国会で決めた付帯決議では、労働者が不利益を被るような悪質な運用を防ぐための項目が盛り込まれた。労働基準監督署が、制度を導入した全企業を指導するよう要請した。法律の運用にあたって今後、厚生労働省が作成する指針に「企業と労働者で合意した内容は原則1年ごとに更新する」などと明記することも求めた。厚労省は決議を踏まえて対応する方針だ。
働き方改革関連法では、非正規労働者の処遇を改善する措置も入った。正規と非正規の間で不合理な待遇差があることを禁じる「同一労働同一賃金」の実現をめざしたものだ。国のガイドライン案では、勤続年数や能力などが同じなら、原則として基本給を同額にする方針。賃金体系の見直しを迫られる企業も出てくる。大企業は20年4月、中小は21年4月に始まる。